Palm Source 2002 Japan に Palm Hackers Salon(以下 PHS) がテクニカル
セッションで参加したことはご存知だと思う。会場で新しい話題を探していた時、ふと見かけた顔が目に入った。昨年アメリカで会った、Plam
Speed Inc. の CEO、Michael Handmacher 氏(以下 M.H)である。
日本国内はもとより、アメリカでもそれほど知名度が高いわけではない Palm Speed Inc. であるが、技術力の高さは定評がある。我々は彼にインタビューを試みた。
PHS:しばらくです。Palm Source Japan にはどんな目的でいらっしゃったのですか。
M.H:1 年ぶりになるね。今回はパートナーを探しにきたんだ。
PHS:パートナーといいますと、新しいビジネスですね。
M.H:そうさ。とてもクールでエキサイティングなプロダクトが完成するんだ!
PHS:ほう!初めて聞きましたが。
M.H:まだどこにも話してないからね。君が最初だよ。
PHS:それで、どんなプロダクトなんでしょうか。
M.H:Palm OS を組み込んだ、世界初のハンドヘルドではないプロダクトだ。
PHS:PDA ではないのですか!
M.H:そうさ。
PHS:すると、冷蔵庫などの家庭用電気製品ですか。
M.H:うちはウォルマートやシアーズとの取引はないからね。
PHS:どんなプロダクトなんでしょう。ちょっと想像がつかないのですが。
M.H:想像もつかないのは無理もないだろうね。誰もそんなことを考えもしなかったし、私が提案した時には、ばかげたアイディアだとさえいわれたからね。
PHS:一体何でしょうか。
M.H:レーシングカーだよ。
PHS:は?
M.H:フォーミュラ タイプ(註:F1 など)のレーシングカーのコントロールに、Palm OS を組み込んだのだ。いや、正確にいえば本体ごと組み込んだのだ。
PHS:正確に言われて、ますます分からなくなってきました。
M.H:レーシングカーのコントロールに、コンピュータが使われているのは知っているだろう。私はそれをもう一歩進めたんだよ。車の操縦は、未だにステアリングとシフトレバーが必要だ。車が発明されて以来、これは変わっていない。
PHS:そういえばそうですね。
M.H:私はこの二つを Palm OS デバイスに置き換えた。コックピットにはステアリングとシフトレバーの代わりに、ドライバーの腿の上に置かれた二つの Palm のパネルがあり、それは右手と左手で操作できるようになっている。ドライバーは自然にコックピットに座った状態で、左右の手に握ったペンを使ってそれぞれの画面をタップすることで、レーシングカーをコントロールすることになる。このためドライバーの肩こりはかなり軽減されるはずなんだ。
PHS:はぁ?
M.H:右手でコントロールするのは、ステアリングの役目をする方の Palm で、ペンで画面を左右になぞると、その通りに前輪が動く。左手でコントロールするのは、スロットル(註:日本では通常アクセルと呼ぶ)の役目をする Palm で、ペンで画面を上になぞるとスロットルが開き、下になぞるとスロットルが閉じるようになっている。
PHS:ドライバーはそれでレーシングカーを運転するわけですか。
M.H:そうさ。ブレーキはそのままになっている。これもなくしてしまうと、ドライバーはただコックピットに座っているだけになるんで、いつの間にか寝ちまうんだ。
PHS:Palm OS API にはレーシングカー用の関数はありませんよ。
M.H:もちろん新たに開発した。例えばステアリングを右に切るためには、vchrSteerRightTurrn 関数を使う。これは 0°〜 90°までの角度を Uint16 のパラメータを渡すことで実際のステアリングを動作させ、成功した時は 1 を返し、失敗した時は 0 を返すことになっている。ペンを画面から離した時の penUp イベントが vchrSteerCentering 関数を呼び出すことで車の直進を実現している。
PHS:失敗した時って、ハンドルの切り損ねってやつですか。
M.H:ああ。でもエラーのハンドリングはきちんとしているから、システムのクラッシュはないよ。
PHS:・・・。
M.H:同じようにスロットル用にはいくつも関数を用意してある。vchrThrotFull、vchrThrotHalf、vchrThrotOff、vchrThrotClose などで、ペンの動きにリアルタイムで追従させるために、独自のパッチをあてた OS 4.5 が使われている。久しぶりにアセンブラを使わなければならなかったけれど、その甲斐もあって、ことにハーフスロットルの動作は完璧で、POSE でのテストでは見事なドリフトが可能になっている。
PHS:実車でのテストはまだなんですか。
M.H:実機でのテストは来週、鈴鹿でやることになっているんだ。そのためもあって日本に来たんだよ。
PHS:実機でのテストをしてないのですか。
M.H:ああ。メカニックが HotSync を知らなくて、クレードルのソケットごと本体をマシンに埋め込んじまったのさ。
我々は M.Handmacher 氏の幸運を祈って、テクニカル セッションへと向かったのであった。
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